ピンちゃんの赤貧日記

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『物理学序論としての力学』藤原邦男著
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    物理学序論としての 力学 (基礎物理学1)
    藤原 邦男 東京大学出版会 売り上げランキング: 101,866


    うーむ、こんなに熱い物理教師がいたのか。本書が手元にとどき、まずは「はしがき」を読み唸らされた。いまだかつて、物理学書の前書きでここまで熱い思いを込めた文章を目にしたことはなかった。これからもないだろう。

    筆者藤原邦男氏の物理学とその教育に対する迸る情熱がどれだけ本書に込められているか、最初の部分だけでも引用せずにはいられない。少々長いが心して読まれたい。
     大学初年度における物理学の講義は、ほとんどすべてが力学から始まる。それは恐らく、力学が、物理学の中でも(幾何光学などと共に)もっとも古くから体系を整え、その後の物理学発展の範となった分野であり、また、力学で導入される力、運動量、エネルギー、……といった概念が物理学全体をつらぬく基礎概念として、先ず最初に習得されるべき性格のものだからであろう。理由はともあれ、とにかく最初に話される分野ということで、力学の講義は、否応なしに物理学序論としての役割をもになわされているわけである。
     だが、力学の講義に課せられた特別な使命は多分それだけではない。この講義が、恐らくは自らの中に日々高まりゆく何ものかを漠然と感じながら集い来ったであろう前途有為の若者たちを前にして開講される、最初の講義の一つであることを思うとき、彼らをして一日も早くその内なるものの正体に気づかせ、学問することの喜びに目ざめさせるよう努力することこそ、この力学の講義に課せられた急務であるとの感を深くする。何故なら、学問に目ざめる以前の若者に教育を施すものは教師であるが、目ざめてのちの彼らを教育するものはもはや他者ではなく彼ら自身である。そして古来、真の教育の成果は、常に、この、自らが自らに対して行なう教育の中にこそ見出されて来たからである。
     以上2つの使命に加えて、筆者は本書に対し研究者の養成という第3の使命をも課した。それは、本書の読者のうちの何割かは、将来研究者として、学問・技術の発展に対しその生涯を捧げることになるであろうと判断したからに他ならない。研究者とは、未知に遭遇してたじろがぬもののことである。自らに対しオリジナルな課題を与え得るもののことである。そして、もしそれが必要なら、いつでも群を離れて独りで闘えるもののことであろう。そのような研究者を育てるための確実な方法をもちろん筆者は知らない。だが、研究者が上記のような性格を備えた存在である以上、単なる知識の習得訓練以外の何らかの、一見、時間の無駄とも見える試みが早くからなされる必要があることだけは確かであろうと思われる。
     上記3つの使命を念頭において書かれた本書は、したがって単に力学を教えるための力学の本ではない。たとえ結果的に見てその試みは失敗に終わっていようとも、力学を通じて物理学の何たるやを語ろうとした本であり、力学を素材として学問することの喜びくを伝えようとした本であり、そして力学教育を通して研究者の養成に資することを念願して書かれた本である。

    どうだろうか、この迫力。この迫力で「はしがき」は更に本書の特徴と具体論と続くのであるが、興味のある方は下にある「続きを読む >>」をクリックして頂きたい。そこにこの恐るべき「はしがき」の全文を載せてある。

    ・・・

    上で引用した文章を読んだだけで本書が他の力学教科書と一線を画すものであることはおわかりであろう。少なくとも筆者藤原氏はそう願い、心血をそそいで本書を完成させたのである。藤原氏は本書により学問することに胸躍らせ入学してきたであろう大学生にに対し「学問することの喜びに目ざめさせるよう努力すること」を急務とし、更に「研究者の養成」をも志している。

    その目的のため従来の教科書にはない方法として古典にその範を求めている。つまり、どのように力学という学問が形成されてきたのか、その過程をつまびらかにたどることで読者にある程度の追体験を味わってほしいと念じているようだ。そのための手間は惜しまず実験データの収集などに明けくれたとはしがきにある。

    学問というものは決して最初から壮麗な構造物として突然現れるのではなく、多くの人々の手を経ることで次第に積み上げられ研かれてできあがることを知ることにより、力学の真髄を身に着けるともに、研究者として必要な強靭な思考力をも獲得することを目指している。また、未開拓の研究という荒野をつきすすむとき「近似」の重要性を意識せねばならない。その点についても本書では強調されている。

    筆者の思い入れは分かったとして、具体的な中身も気になる方が多くいるだろう。まず目次を抜き書きしてみよう。

    第1章 はじめに
    第2章 質点の運動とその法則
    第3章 運動方程式の解法
    第4章 仕事とエネルギー
    第5章 振り子について
    第6章 万有引力
    第7章 相対運動
    第8章 質点系の力学
    第9章 剛体の力学(機
    第10章 剛体の力学(供
    第11章 解析力学

    さて、11章に分かれているが、力学教科書の章立てとしては割と普通である。第1章は力学の成立に欠かせない歴史的な物語、すなわちコペルニクスからティコブラーエ、ケプラー、ニュートンなどの物語である。簡単な物理学史のおさらいではなく、惑星などの観測データからどのように力学が形成されていくのか、本気で考えながら読み進めることになる。

    私は本書を今日アマゾンから受け取ったばかりであるから、きちんと目を通したのは2章の途中までである。普通ならすべてに目を通してから感想をかくのであるが、はしがきがただごとではなかったので驚き、本書のようなユニークな力学教科書が存在することをまずは皆さんに伝えたかった。

    今からこの教科書で力学を復習し、結果を詳細にリポートしたいと思っている。少々時間はかかると思われるが、皆様におかれてはたのしみに待っていて欲しい。

    ・・・
    はしがき

     大学初年度における物理学の講義は、ほとんどすべてが力学から始まる。それは恐らく、力学が、物理学の中でも(幾何光学などと共に)もっとも古くから体系を整え、その後の物理学発展の範となった分野であり、また、力学で導入される力、運動量、エネルギー、……といった概念が物理学全体をつらぬく基礎概念として、先ず最初に習得されるべき性格のものだからであろう。理由はともあれ、とにかく最初に話される分野ということで、力学の講義は、否応なしに物理学序論としての役割をもになわされているわけである。
     だが、力学の講義に課せられた特別な使命は多分それだけではない。この講義が、恐らくは自らの中に日々高まりゆく何ものかを漠然と感じながら集い来ったであろう前途有為の若者たちを前にして開講される、最初の講義の一つであることを思うとき、彼らをして一日も早くその内なるものの正体に気づかせ、学問することの喜びに目ざめさせるよう努力することこそ、この力学の講義に課せられた急務であるとの感を深くする。何故なら、学問に目ざめる以前の若者に教育を施すものは教師であるが、目ざめてのちの彼らを教育するものはもはや他者ではなく彼ら自身である。そして古来、真の教育の成果は、常に、この、自らが自らに対して行なう教育の中にこそ見出されて来たからである。
     以上2つの使命に加えて、筆者は本書に対し研究者の養成という第3の使命をも課した。それは、本書の読者のうちの何割かは、将来研究者として、学問・技術の発展に対しその生涯を捧げることになるであろうと判断したからに他ならない。研究者とは、未知に遭遇してたじろがぬもののことである。自らに対しオリジナルな課題を与え得るもののことである。そして、もしそれが必要なら、いつでも群を離れて独りで闘えるもののことであろう。そのような研究者を育てるための確実な方法をもちろん筆者は知らない。だが、研究者が上記のような性格を備えた存在である以上、単なる知識の習得訓練以外の何らかの、一見、時間の無駄とも見える試みが早くからなされる必要があることだけは確かであろうと思われる。
     上記3つの使命を念頭において書かれた本書は、したがって単に力学を教えるための力学の本ではない。たとえ結果的に見てその試みは失敗に終わっていようとも、力学を通じて物理学の何たるやを語ろうとした本であり、力学を素材として学問することの喜びくを伝えようとした本であり、そして力学教育を通して研究者の養成に資することを念願して書かれた本である。

     このような3つの意図を達成するために、筆者はまず”経験数理科学”としての物理学の姿が本書の中から出来るだけ鮮明に浮かび上がるよう努めた。つまり、他書と同様、数理の展開を重視する一方で、それを裏づけるための実験データや新たな計算を誘発する実験データの紹介を試み、読者がこの学問の姿を両眼を見開いた形で立体視できるよう配慮したつもりである。実際、物理学において、古典力学ほどこのような立体視に都合のよい分野はないであろう。何故なら、多くの場合、われわれは理論の結果を身近にある簡単な道具を用いて直ちに確かめることが可能だからである。本書では先ず、力学の原典『プリンキピア』の中から、開拓当時の息吹を伝えるいくつかの実験データを掘り起した。そして引用すべき昔のデータがない部分については、筆者自身が自宅や研究室の片隅で行った実験の結果を紹介してある。それらの多くは辛うじて有効数字2桁の議論に耐えうる程度のものである。だが、そのことが却って、実験的検証の手続きに対する近よりがたいとの印象を消し、読者のうちの何人かに自分でも一、二の実験を試みようとする気を生じしめる結果になるなら、筆者の努力は確実に報われたといってよいであろう。
     本書の第2の特色は、力学の内容について出来るだけ納得のゆく形での解説につとめるかたわら、力学の開拓者たちが残した歴史を、学問が出来上がりゆく過程を眺めるための、そしてまた、研究の世界を垣間見るための、こよなき教材として積極的に利用した点にある。もし既存のすべての学問が最初から完成度の高い美しい形をとり、その論理にいささかの無駄もなく提起されたものであったなら、その学問の入り口に立つ若者たちはただただその壮麗さに圧倒されて、新たな闘いをいどむための意欲を早くから喪失するであろう。したがってもし彼らに学問の未来をゆだねることをもくろむなら、かつての学問をつくった人々が同じ人間として試行錯誤をくり返し、また、その学問の表現形式や論理が何代にもわたって少しずつ洗練されて行ったという事実は、是非歴史書から掘り起こされて彼らに伝えられなければならない。本書ではそのような歴史の話を、読者の理解力の進度に応じ第1、第6、第7、第11の各章に分割して配置した。ただし初学者に対しいたずらに混乱を与えることがないよう、歴史の流れから見て重要ではあっても、最終的に正しくないと判断された学説の説明に多くの言葉を費やすことはさけてある。
     本書の持つ第3の特色は、たくましい研究者が育つことを念願してなされた幾つかの配慮にある。筆者は先ず、簡単には解けそうもない問題に対しても、とにかく、「近似」の手法を用いてせまるという態度の重要さを強調し、第5章『振り子について』の後半でその実例を示した。そこでは、近似の妙味が読者にもっとも活き活きとした形で伝わるよう、先ず読者の前に一組の実験データを呈示し、そのあと近似の手法を駆使して、それらの測定点を何とか1本の理論曲線の上にのせてしまうという形で話を展開してある。また筆者は、各章末に付した演習問題の或るものを。やや変わったスタイルに書き改めてみた。つまり、解答を先ず実験データの形で呈示してその理論的解釈を求める形式をとったり、「空気の抵抗を無視してもよいか」とか「その抵抗は速度の何乗に比例すると見るべきか」などという判断を天降りに与えることなく、読者の判断にまかせたことなどがそれである。その判断のもとになる材料はもちろんテキストの部分で講義されている。何故そのようにしたかというと、実際の研究においてわれわれに先ず必要なのは何を無視して何をどういう形でとり入れるかという判断であって、そのような判断にたえるたくましい思考力を養うためには、過保護でない形の問題もまた必要と考えたからである。ただし読者が本書のために割きうる時間の限度をも考慮して、他の大部分の問題については従来通りのスタイルとし、しかも伝統的な問題は出来るだけ逃さずに収録するように努力してある。

     本書の執筆にあたっては、巻末のリストにかかげたような都合48の文献を参照させていただいた。このリストの前半にある古典の翻訳書や、歴史書、天文書等の参照なくしては本書の意図の一半は遂行不可能であったし、また後半の力学教科書や専門書の参照なくしては多くの考え違いや重要事項の見落としを行ったかと思われる。これらの文献の著者や訳者の方々に謹んで御礼を申し上げたい。
     東京大学教養学部物理学教室の小出昭一郎教授は筆者にこの本の執筆をすすめて下さった。
     また、東京大学出版会の小池美樹彦氏は執筆の初期の段階から本書の新しい試みのすべてに積極的に御賛同下さり、ぜひ個性のある本を書くようにとはげまして下さった。また筆者の面倒な注文のほとんどを快く聞き入れて下さり、原稿の完成を辛抱づよく待ちながら絶えず力強く筆者を引っ張って来て下さった。
     ここに両氏に対し心から感謝申し上げる。

     ふり返るとここ数年来暇さえあれば実験データや資料の蒐集ぶ明けくれた日々も、また最近の一年余にわたる原稿執筆の日々も、苦労が終わりかけた現在となってはすべて佳き思い出である。今、手許の校正刷を読み直すと至るところ不満な点ばかりが目につくが、その内容の未熟さはともあれ、本書の紙背にたぎる筆者の熱血が、学問の入口に立つ若者たちの熱血に呼応して、今後、本書が学問の進展のために少しでも役立つことを念願して止まない。最後に、閃光に眼を疲れさせながら、幾度も厄介なストロボ撮影に協力してくれた妻康子への感謝のために、2行をつけ加えることをお許しいただきたいと思う。


     1984年8月2日

     藤 原 邦 男

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