2017.12.02 Saturday
『大学入試必修物理(下)』駿台受験叢書
さて、『必修物理』下巻をようやく読み終えることができた。上巻を読み終え感想を書いたのが11月8日だったので(*)、一月ほどかかったことになる。出てくる数式などもフォローしながら丁寧に読むとそれくらいはかかっちゃうなあ、というのが正直な感想かな。
上巻に関しては理解度80〜90%くらいと自己判定していたのだけど、下巻は70〜80%というあたりだろうか。やや不満が残るものの、あまりのんびりしていられなくて後半はやや読み飛ばし気味になってしまった。ところどころ数式を追えないところもあったし。それ以外に、そもそも下巻の方が難しかったということもある。
ということで、下巻の目次を抜き書きして章ごとに簡単な感想でも書いておきましょうか。参考のため上巻の目次も書いておきますね。
上巻
1 質量と電気量──粒子に固有の量
2 速度と加速度──運動を記述する量
3 運動量と運動エネルギー──運動の基本量
4 重力と静電場──相互作用エネルギー
5 弾性波と音波──運動形態の伝播
6 温度──統計量
下巻
7 角運動量──もう一つの運動の基本量
8 電流──電子運動の巨視的現象
9 電磁場──静電場からの発展
10 光──電磁波として
11 プランク定数──微視的世界の運動記述
12 高エネルギー現象──粒子の生成・消滅
こうして眺めてみると下巻はとても高校生用の教科書とは思えない。まず7章の角運動量なんだけど、剛体とか多粒子系の力学なんですね。重心運動とかでてくるのだけど、ここは明らかに大学受験の範囲外です。私が高校生だった30年以上前でも範囲外でしたぞ。
とはいえ、何を隠そう大学の物理学科に進学したのに私はほとんど剛体の勉強をしたことがない。したかもしれないけど、ほとんど記憶にない。なので、ちょうどいい機会だと思い真面目に勉強しました。角運動量とか回転モーメントについてはほんとにすっぽり抜け落ちていたんですよね。ということで、個人的には7章の内容は助かりました。
8章9章なんだけど、どうもここの記述はなじめなかった。もともと『必修物理』下巻を読み終えたら別の本で改めて電磁気学の勉強をするつもりだったこともあってか、身が入らなかったなあ。説明もごたごたしていて分かりずらかったし。一応数式はだいたい計算して確かめてましたが。
10章は電磁場が実は光だったということで続いてます。光の直進性とか入射角と反射角が等しいとか幾何光学から入り、徐々に難しくなっていく構成。ホイヘンスの原理からフレネルの理論というのを詳しく解説してあるんだけど、途中よく分からないところがあった。さすがにこれも高校生には難しすぎるのではなかろうか。
サイン、コサインの公式をなんども参照しながら一生懸命波動の重ねあわせの計算してましたが、少々疲れましたぞ。しかし、10章はもう一度読み返してもいいかなと思いました。他の参考書ではフレネル理論なんて解説見たことありませんでしたから。
11章の「プランク定数」は読んでビックリ。完全に前期量子論の内容。理学部物理学科の大学生でも前期量子論の部分をこんなに詳しく勉強しないような気がする。古典物理学が破たんして量子力学理論が建設され始めるまでの端境期の話なのだけど、これまた高校生には難しすぎると思います。私は面白かったけど。
最後の12章は特殊相対論的運動学が出てくるという、ほんとに高校生用の教科書なのかと目を疑いました。まあ、ページ数の制約もあるからそれほど詳しくは書いてないし、あれだけではどんなにできのいい高校生でもちょっと意味は分からないだろうと思う。
この章の最後が原子核の解説になっているのだけど、そこは非常に面白かった。いやー、私は専門が物性論だったので原子核の事をあまりよく知らないのです。α崩壊とかβ崩壊の説明がわかりやすかった。ほんとに『必修物理』下巻を読んで初めて知った原子核関係の知識がありました。
いやー、ためになったなあ。やはり物理学徒たる者、原子核や素粒子関連も基本的なことくらいは知っておかないといけませんね。
・・・
とまあ、各章の感想としては上のようなものだけど、大学受験用の参考書として見ると、そもそも受験範囲を思い切り逸脱してる部分があって笑ってしまいそうです。確かに剛体も回転運動も重要だから説明したくなる気持ちは分かりますけどね。
最近は大学生用の教科書も懇切丁寧、わかりやすいと謳ったものが多い昨今、昔の教科書とはいえ、高校生、浪人生用にここまで辛口の内容にしてあるのはある意味あっぱれという気もしてしまいます。
まあ、私のように現役の浪人生(?)の頃は歯が立たなかったとしても、そのあとまじめに勉強すればある程度は分かるようになるものなのだから、やる気のある若者は当たって砕けてみるのも一興でしょう。頭のいい高校生ならある程度は理解できるのだろうし。
ということで、上下巻あわせて2か月くらいかかったかと思いますが、とても楽しい時間を過ごすことができました。筆者である、坂間勇、谷藤祐、山本義隆各氏に感謝します。余裕があれば問題集にも挑戦してみたいと思ってますが、どうなることやら。