ピンちゃんの赤貧日記

明日は明日の風が吹く
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『この世界の片隅に』鑑賞記
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    恐る恐るドアを開けると8畳ほどの空間だった。ひょっとするともう少し狭いかもしれない。一瞬スタッフの控室の類かと思ったが勇気を出して聞いてみた。

    「あの、、、ここは映画館ですか?」
    「ええ、そうですよ」

    背中を向けていた女性がふり返り答えてくれた。元映画少女の気配がある。ホッとしながら中に一歩入り込み部屋の中を見渡してみた。壁一面に知らないタイトルの映画ポスターが貼られていて、女性が何か作業をしていた机の上には映画関係のグッズのようなものが並んでいる。

    古いビルの二階がボーリング場になっているのは知っていたけど、映画館がビルの中のどの辺にあるのかは知らなかった。受付らしいこの空間とは別にもっと広い待合室に繋がっているのかとも思ったけれど違うようだ。どうやらここが待合室も兼ねているらしい。

    この世界のなんちゃらやってますかと聞くと、ええやっています、6時半からです、とのことだった。時間は午後5時50分で外は既に真っ暗だ。6時からだと勘違いして大急ぎで来たのだけど、間に合ったとの安堵はすぐにどこかに飛んでいき、40分もどうやって時間を潰そうか咄嗟に頭の中で考えた。

    「じゃあ、こちらでお待ちください」

    ちょっと時間を潰してきますと喉まで出かかったところで先にソファーを勧められてしまった。映画館の女性はすぐに背中を向け作業に戻ってしまったから深い意味はなかったのだろう。外で時間を潰してきますと断って車に戻ってもよかったのだけど、せっかく勧めてもらったのに、この小さな待合室から外に出ていくのは何か悪いような気がした。

    ・・・

    壁に緞帳のようなものが垂れ下がっていて不思議に思っていたらそこがスクリーンのある部屋への出入り口で、緞帳のかげに鉄製のドアがある。時間になると件の女性が幕を手で横にひろげ、中から数人のお客さんが出てきた。女性がレジに移動したので鑑賞料金1700円を支払い、代わりにひとまとめになったパンフレットなどを手渡された。

    シアター内は座席が五列になっていて、満席で40名ほどが鑑賞できる。予想通りのミニシアターだ。客はわたしを含め5名。わたしのすぐ後にやってきて待合室で小声で話をしていた男性二人組、上映時間ぎりぎりにやってきた男性、そしていつ現れたのか謎の銀髪老人。こんな小さな映画館にくるくらいだからみな映画好きなのだろう。

    映画が始まると、主人公「すず」が子供の頃の話から始まった。途中で気づいたけれど、左上に日付がでてくるのは、すずがつけていた日記からの記述ということなのだろう。とても牧歌的で、絵を描くことが大好きで、ぼんやりものの女の子の成長が淡々とつづられていく。途中で夢の話なのか空想なのかよく分からないエピソードが出てくるのがひとつのポイントのようだ。

    ・・・

    このアニメはひとりの女性の人生を淡々と描いている。日常生活の小さなエピソードの積み重ねが人生であり、姉妹の何気ない会話や食事、学校での出来事や淡い初恋、結婚、新しい家族との生活。誰もが同じようでいて細かく見ていくと違う道を歩んでゆく。

    歩んでいた道の前に運悪く戦争があったからといって、なにかが突然に変わるものではないという当然の事実をありのままに描いている。あくまで生活が先にあり、それとは別に日本は戦争をはじめてしまったのである。

    なるべく予断をもたないようにしようとしていたから、このアニメ作品は第二次大戦中の広島の話としか知らなかった。なので、なかなか戦争の話にならないなと思いながら最初は眺めていた。広島で生まれ育った少女は呉へと嫁ぎ、呉は軍港の街だった。軍需施設の多いこの街は当然のことながら米軍の標的となる。

    ・・・

    映画の最後にスタッフロールが流れ、そのあとにクラウドファンディングに協力した人の名前が、恐らく全員分の名前が流れてくる。一体何人の人がこの映画製作に協力したのかは知らないけれど、いかにもこの映画にふさわしい資金集めである。

    さほど大きくないスクリーンの下の方には薄い汚れがあった。最初は気になったけれど、途中でそんなことは忘れスクリーンに見入っていた。その上を本名とは思えない名前がところどころにあるのを微笑みながら見送って映画は終了した。

    緞帳をくぐり待合室に出ると元映画少女らしきスタッフ女性はいなくなっていた。夜9時近かったから勤務時間が終わり帰宅したのかもしれない。観客の一人だと思っていた謎の銀髪老人が代わりに観客に感謝の言葉をかけている。どうやら観客ではなく映画館の館長さんらしい。

    映画館の外は寒かったけれど、よーし、明日も頑張るかとしみじみしながら車に乗り込んだ。
    | 読書・映画 | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) |
    コメント
    昨日この映画見てきました。広島では満員御礼の上映です。舞台の呉はわたしの母の実家の近くで景色が子供の頃過ごした呉を思い出させてくれました。山や街並みなど忠実に再現され、ついつい魅入ってしまいました。
    何気ない生活から戦争の影響がだんだん迫りくる描写が見事でしたね。原爆も直接でなくインパクト与えていました。新しい形の反戦の表現ですね。
    個人的な意見すいません。
    | にしん | 2017/01/19 11:14 AM |
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