ピンちゃんの赤貧日記

明日は明日の風が吹く
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再会
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     パーティ会場は人で溢れていた。たばこの煙で会場は白く煙っている。この業界は相変わらずヘビースモーカーが多いようである。
     かつてはヒット作を連発していた作家があるときから書けなくなり、15年ぶりに書下ろしを発表した。その記念パーティだから、どうでもいい人間が集まっている。出版社としては宣伝になればなんでもよいのだろう、ここぞとばかり出版業界にうごめくひとびとが集まっている。
     不自然にならないように視線を走らせていると、突然話しかけられた。

     「よう、久しぶりだな」
     なるほど、お祭り好きのやつなら当然きてると思うべきだった。舌打ちしたい気分を抑え向き直った。
     「お前はどこにでも現れるな」
     「久しぶりだというのに、ご挨拶だな。お前がこんなパーティに顔を出してるなんて驚いたぞ」
     木村は悪いやつじゃないが、デリカシーに欠ける。というのが大学生の頃知り合って以来の俺の評価だ。今は有名週刊誌のデスクにまでなっている。あまりぱっとしない編集者の俺よりは社会的な評価ははるかに上だ。
     「俺だって只酒は好きなんだよ。知ってるだろ」
     「まあな、大学の頃はふたりで飲みまくったからな」
     木村はあくまで屈託がない。しかし、こういう現れ方をするときは腹に何かいちもつ持っているんじゃないかと疑ってしまう。昔からそういうやつだった。
     警戒感がなくなった頃に唐突に木村が言った。
     「おい、あの女知ってるか?」
     水割りのグラスを持ちながら木村が器用に指差す方向を見て、俺は動揺した。美樹が昔と変わらぬ容姿で誰かと談笑していた。さっきから探していたというのに、なぜ気付かなかったのだろう。
     「おい、お前も業界の人間なんだから、知ってるだろ?」
     木村はいぶかしげに聞いてくる。
     「ああ、女性誌かなんかの編集長だろ?」こうこたえるのがやっとだった。
     「いい女だよな」
     「お前はそんな話しかしないな」
     「そういうな、ちょっとしたネタを教えてやりたくてな」
     俺は嫌な予感がした。ふたりのことは誰にも分からないように気をつけていた。特に木村のような男に知られるのを恐れていた。ふたりの間が終わった後も、誰にも知られていない自信があった。
     「あの女な、とんでもない淫乱だぞ」
     「何?」
     「なんでお前がそんな怖い顔をする?」
     木村はあくまで無神経なそぶりをしている。俺と美樹の仲を知っているのかどうか、俺にはよく分からない。
     「どういうことだ?」
     「あの女はな、男に言い寄られたら絶対に断らない」
     「どういうことだ。はっきり言え」
     「お前も知ってるだろ、フランスの女編集者」
     「ああ」俺の嫌な予感は当たったようだ。
     「あれといっしょでな、とにかく言い寄る男にノーと言えないらしい」
     「・・・」木村は好色な表情でまた口を開いた。
     「噂はなんとなく耳にしてたんだ。ただ、どうしても信じられなくてな、それで思い切って誘ってみたらな……」
     木村に最後まではしゃべらせなかった。突然殴られた木村は目を大きく見開いている。周りにいた客は、何が起こったのか分からず、不審げなまなざしで俺を見ている。
     俺はまっすぐに美樹に向かって歩き始めた。
    | 小説 | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) |
    コメント
    (これ、読んだら消して下さっても良いです)

    『イワン・イリッチの死』 トルストイ

        どの翻訳が良いかは知らん。
    | 喜紺 | 2017/07/20 3:57 AM |
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