ピンちゃんの赤貧日記

明日は明日の風が吹く
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【トムラウシ山遭難事件】
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    日本における夏山遭難事件でも最大の惨事となった「トムラウシ山遭難事件」。事件はどのように起こり、何が原因だったのか。現在ネットで判る範囲で調べてみた。

    ■遭難事故の概要

    ○【緊急企画 夏山遭難】トムラウシ山の惨事(上)
    http://www.tokachi.co.jp/feature/200907/20090718-0002104.php

    ○【緊急企画 夏山遭難】トムラウシ山の惨事(下)
    http://www.tokachi.co.jp/feature/200907/20090719-0002116.php

    トムラウシ遭難事件まずは地元の「十勝毎日新聞」。地元だけあって、非常に判りやすく遭難事件の概要を伝えている。事故が起きたのは7月16日。当時「ヒサゴ沼避難小屋」には、

    ・18人のツアー客(遭難した15名のツアー参加者と3名のガイド)← アミューズ隊
    ・静岡県の6人のパーティー ← 静岡隊
    ・2人の夫婦

    計3組26名が宿泊していた。2人の夫婦は旭岳に北上するルート(トムラウシと逆方向)に向かい、残るふたつのパーティがトムラウシを目指していた。

    静岡隊のリーダー男性(66)は「前日から雨風がすごかったが、当日未明にちょっとおさまり、前線が通り過ぎたと思って出発した。特に風が強く、雨は降っていた」と語っている。

    ラジオの天気予報によれば、天候は回復するという情報を得、アミューズ隊が午前5時半、静岡隊は午前5時35分、ともに5分差で出発するのであるが、アミューズ隊の出発予定は午前5時であり、30分様子を見ていたようである。

    しかしながら、ラジオの天気予報は山の天候ではなく、平野部(町)の天気予報であり、山と平野部では半日くらいのタイムラグがあると地元では知られていたらしい。実際、静岡隊のリーダーが語っている「当日未明にちょっとおさまり」というのは、低気圧と低気圧の間に挟まれた偽の高気圧であり、この判断の誤りが未曾有の大遭難事故をひき起こしたと言っていいだろう。

    ■アミューズ隊の参加者たち

    今回遭難したアミューズ隊は、アミューズトラベルが企画した「やや健脚コース」に参加した15名に、会社が用意した3名のガイドであった。参加費は、往復の旅費を別として一人15万ほどで、会社が想定していた参加者は、全くの初心者ではなく登山経験がある年配男女であったらしい。

    「やや健脚コース」の予定はといえば、2泊3日で40キロほどを縦走するコースであり、ガイドが3名つくとはいえ、10キロ以上の装備を背負い、日に10キロ以上(10時間前後)の登山は、初心者でないとはいえ、60才以上が大半を占める参加者には苛酷ではなかったかと思われる。

    ガイドA:吉川寛さん(61)← ガイドでただ一人死亡
    ガイドB:多田学央さん(32)
    ガイドC:松本仁さん(38)

    ・亡くなった方

    名古屋市:川角夏江さん(68)
    同市:味田久子さん(62)
    同市:木村隆さん(66)
    愛知県弥富市:竹内多美子さん(69)
    岡山県倉敷市:岡恵子さん(64)。
    浜松市:市川ひさ子さん(59)
    広島市:植原鈴子さん(62)

    ・自力下山

    広島市:亀田通行さん(64)
    同市:前田和子さん(64)
    仙台市:長田良子さん(68)
    山口県岩国市:斐品(ひしな)真次さん(61)
    愛知県清須市:戸田新介さん(65)

    ・ヘリで救助

    浜松市:真鍋記余子さん(55)
    岐阜市:野首功さん(69)
    広島市:石原大子さん(61)

    新聞記事から詳しくアミューズ隊の方々のお名前を載せているけど、むしろ注目して欲しいのは、年齢と居住地である。アミューズ隊が全国各地からの参加者をひとまとめにしていることと、平均年齢が60歳以上であるのが見て取れる。

    静岡隊6名が同じ気象状況で無事下山でき、アミューズ隊が8名もの死者を出した理由の一端がここにある。

    ■事故発生時の状況

    出発時に天候を読み違えたことは先に述べたが、ガイドBが先頭(3人のガイドのうち、唯一トムラウシ登山経験あり)、ガイドAがしんがり(トムラウシ登山の経験はないものの、登山経験は豊富)。間に15名の参加者とガイドCがいたものと思われる。

    風速20メートルを超える暴風雨の中を一行18名は歩いていくのだが、まず女性1人が体温の低下で体調を崩し、北沼分岐あたりで動けなくなる。そこでガイドAがいっしょに留まり、ビバークすることになるのだが、参加者の野首さんからツェルトを借りたそうである。なぜベテランガイドAがツェルトを用意していなかったのか疑問が残る。

    ここで更に重大な問題がある。ガイド3名は動けなくなった女性の対処について話し合っていたのかもしれないが、残された参加者14名は、風速20メートルの中(ちょうど風を遮るものが何もない場所であったらしい)、1時間半も放置されていた。この1時間半で、後に遭難死する何人かの体温が決定的に奪われたと見て差し支えないだろう。

    事実、この1時間半の停留で、参加者の一人の女性が奇声を発し始めたとの証言もある。これは明らかに低体温症の一症状で、後に亡くなった女性の誰かであるだろう。

    ■この時点で引き返すことはできたか

    現在の登山においては、遭難しても携帯電話が活躍することが多い。では、今回はどうなのか。すぐに携帯電話で遭難救助を要請するか、可能なら「ヒサゴ沼避難小屋」へ戻るべきだったと疑問に思う人も多いだろうが、どうもどちらも無理そうである。「ヒサゴ沼避難小屋」での携帯通話は安定して可能のようだが、トムラウシまでの道中は不感地帯が多く、天候にも左右されるようだ。

    一方、戻ろうとしても運悪くこの日の風は北風で、しかも風速20メートルである。装備を背負っていなくてもまず無理である。この時点で残された道は、背中から風に押されながら、一気に東大雪荘まで移動するしかなかったであろう。

    最低でも、風除けになる樹木が生えているところまで逃げ込まなければ厳しかったと言わざるを得ない。

    ■その後の経過

    ガイドAと動けなくなった女性を置き去りにする形で、残り16名は下山を目指したが、途中でまた問題が起こる。更に何人かの参加者が動けなくなる。ここでガイドBが参加者数人とビバークすることになり、残りの参加者はガイドCに託されることになる。

    ここからガイドCは残りの参加者とともに下山するのだが、一般参加者がついて来れないほどのスピードだったらしい。理由は判らない。この時点でアミューズ隊は完全にちりじちになり、パーティの呈をなしていない。残された参加者は、それぞれの技量に応じて、生き残るために必死に行動したと思われる。

    ■救助要請と時間経過について

    ○トムラウシ山遭難ドキュメント
    http://www.tokachi.co.jp/news/200907/20090717-0002084.php

    16日午後3時54分  午後3時半に下山予定だった登山ツアー参加者から「トムラウシ山頂付近強風で下山不可能」と携帯電話で110番通報と救助要請
    同5時ごろ  新得署に旅行会社を通じて「4人くらいだめかもしれない」という登山者からのメールが届く
    同6時ごろ  新得署員3人が同山短縮登山口に車両2台で到着
    同8時半ごろ  男性2人、女性3人のグループから新得署に携帯電話で連絡。女性1人が意識不明で、近くに別に倒れている生死不明の男性を目撃したとの内容
    同10時ごろ  グループから予定されていた携帯電話の連絡時間。連絡はなし
    同10時15分  救急車が短縮登山口に到着
    同11時すぎ  新得署に連絡があった携帯電話に電話するも不通
    同11時45分  新得町が道を通じ自衛隊に正式に救助要請する
    同11時50分  5人のうち亀田通行さん、前田和子さん=いずれも(64)、広島市=が自力下山。2人は当初3人で下山したが、途中で1人と離れたと話す
    17日午前0時55分  温泉登山口に長田涼子さん(68)=仙台市=、斐品真次さん(61)=山口県岩国市=が自力で下山
    同1時10分  自衛隊員が新得署に到着
    同3時半  前田さんの話からツアー客らが離れ離れになった様子が判明し始める
    同3時53分  警察、消防署員各3人計6人が短縮登山口から捜索登山を開始
    同4時  道警航空隊、自衛隊ヘリコプターなど計3機が順次上空からの捜索を開始
    同4時38分  前トム平で女性を発見。ヘリで収容し、短縮登山道から救急車で清水の日赤へ搬送。意識不明
    同4時45分ごろ  戸田新介さん(65)=愛知県清須市=が短縮登山口に自力下山
    同5時1分  前トム平で女性を発見。呼び掛けに応答なし。ヘリで引き揚げて帯広厚生病院へ搬送。意識不明
    同5時16分  真鍋記余子さん(55)=静岡県浜松市=を発見、短縮登山口に降ろし、事情聴取。このときヘリから「1人硬直している」との無線が新得署に
    同5時30分  自衛隊地上部隊が北沼付近で3人の生存者と4人が倒れているのを発見
    同5時35分  トムラウシ分岐付近で意識不明の男性1人を帯広厚生病院に搬送、死亡が確認
    同5時45分  道警ヘリが北沼西側付近で手を振っている2人、同東側に倒れている2人を発見した
    同6時32分  南沼キャンプ場付近で寝袋にくるまっている男性1人を、先行していた地上部隊の1人が発見
    同6時50分  自衛隊が男性3人、女性4人の救助完了。うち男性1人と女性3人が意識不明
    同9時35分  ツアー関係者18人のうち17人の安否判明。生存者9人と死亡者8人と確認された
    同9時36分  自衛隊ヘリコプターが南沼東側付近で、ツアー関係者以外の登山客とみられる男性1人の遺体を発見
    同10時44分  登山客がコマドリ沢付近の雪渓で倒れている男性を発見し110番通報。男性は「マツモトヒトシ」と名乗り、ツアースタッフの松本仁さん(38)=愛知県一宮市=とみて救助、帯広厚生病院に搬送

    ■遭難事故の原因について

    まずは、今回の登山ツアーを企画したアミューズトラベル(AT社)の体質について述べないわけにはいかない。1番目の問題点は、AT社が避難小屋を自らのツアー参加者の宿泊施設にしていること。避難小屋とは文字通り、登山者が避難する小屋で、通常ならテントを張って宿泊すべきである。

    それができないくらいの悪天候の時、緊急避難する小屋なのである。それを承知で宿泊施設として利用し、今回の遭難事件でも、次に来るAT社のツアーのために無理に避難小屋を空けるために判断を間違ってしまったのではないかという疑惑がある。

    実際の話「ヒサゴ沼避難小屋」には、AT社の場所取り要員が常駐していたそうで、そういう儲け主義のAT社に対して、地元の山岳会は白い目で見ていたことは想像に難くない。本来なら、トムラウシ近辺の気象状況に関して、最も詳しい地元山岳会との連携がない時点でも、AT社のやりかたが支持されていなかったことがわかる。

    もうひとつ原因を挙げるなら、参加者の技量に差があったこと。あちこちから呼び集めたツアー参加者は、いまひとつコミュニケーションが足りなかった恨みがある。装備にも差があったようで、助かった方は、それなりに本格的な登山装備をしていた。まさか夏山で「凍死」するなんて想像もしていなかった方々まで参加されていたのが、大惨事につながった原因のひとつだと推定される。

    ■無事下山できた静岡隊との比較

    アミューズ隊から5分遅れて出発した静岡隊は、6名全員が無事下山した。その差がどこにあったのか。まずは体力が違った。アミューズ隊は、前日も10時間以上風雨の中を歩きどおしで、避難小屋についても雨漏りでまともに体も服も乾かせなかったらしい。

    それは静岡隊も同じ条件なのだが、彼らは前日4時間ほどしか動いていなかったらしい。その条件の差が大きかったようで、5分後に出発しながらも、ほどなくアミューズ隊を追い抜いている。さらに、静岡隊は6名の小規模パーティで、気心が知れた集団であったろう。

    遅れそうになった女性の荷物を持ったりして、助け合いながら何とか下山できた。

    ■結論として

    なるほど、トムラウシ登山は、天候さへ悪くなければ年配の方でも問題はないようではある。だからAT社は好天を前提にツアーを組んだようだけど、夏の山でも山は山。天候がいつ崩れるのかは予想がつかない。もしも、天候が荒れたときどうか。

    小規模パーティで気心のしれた静岡隊は生き残り、寄せ集め、技量もばらばらのアミューズ隊は最悪の結果になった。このふたつのパーティの差は、天候がよければ小さなものだったと思うのだが、その小さな差が、ここまでの明暗を分けたことは、明記しておくべきだろう。

    【追記】2009.10.13
    語尾が途中で「ですます調」になっている部分があり、読むとやや不愉快な不統一感があったので、直しておいた。


    【追記】2012.11.06
    中国の万里の長城での死亡事故がまたアミューズ・トラベル主催だったことが分かり、このエントリを読みに来る人が多いみたいなので読み返してみたのだけど、「らしい」の連発ですね(笑)。いや、こういう事件関係で笑っちゃいけないんだけど、私は自分の文章を笑っているのです。しかし、この文章を書いていた時点では断定できることと出来ないことがあって、出来ないことは「らしい」と書くしかなかった。



    | コラム | 00:00 | comments(2) | trackbacks(0) |
    コメント
    学校でトムラウシ山についての宿題が出て、参考になりましたっ(●^o^●)
    ありがとうございます!!
    | ハル | 2009/10/06 10:58 PM |
    ハルさんに参考にしていただいたのは嬉しいのだけど、
    このエントリに書いてあることは、あくまで私・ピンちゃんが
    当時ネットで集めた情報を元にして書いたことであります。

    ことは、多くの方が亡くなった重大な事件でもありますので、
    その情報の扱い、誰に責任があるみたいな内容については、
    慎重にお願いします。
    | ピンちゃん | 2009/10/06 11:23 PM |
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